KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2016年8月号
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女王蜂になるか働き蜂になるかは、生まれてから成虫になるまでの食べ物で決まる。ロイヤルジェリーで育てられると女王、ワーカージェリーで育てられると働き蜂。受精卵から生まれると雌になり、女王も働き蜂も同じ受精卵である。 一方、無受精卵からはオス蜂が生まれる。女王蜂は3年から4年の寿命があり、一日千個から2千個の卵を産む。働き蜂は蜜集めの忙しい時期は約1ヶ月の寿命で、越冬の場合は6ヶ月ほど生きる。しかしミツバチの世界は短い一生でもそれぞれ役目が決まっており、想像以上に奥が深い。働き蜂はハウスキーピングや育児もこなし、最後の一週間ほどでティースプーン一杯の蜜を集めて一生を終える。そう考えるとミツバチは可哀そうに思えるが、こちらが蜜をいただくのは5月から7月までで、あとはミツバチの取り分である。 また冬になって餌の蜜が少なくなったときはこちらから砂糖水を与えることになる。家畜なので世話もしなければならない。8月下旬から11月下旬までは天敵のスズメバチから守ってやらなければならない。ミツバチを扱うときに燻煙器を使うが、これは大昔からの知恵の賜物で、煙をミツバチに掛けるとミツバチは山火事が起こったと勘違いして大人しくなり、蜜を体に吸い込んで逃げる体制になり、人は刺されにくくなるという寸法だ。私もミツバチの話をしだすと止まりそうにない。 さて私はかかりつけ医である。かかりつけ医は在宅の患者だけでなくその家族も診察し、長い時間をかけて関係を築いている。家族構成やそのバックグラウンドを理解して患者に接している。国は在宅支援診療所や病院を在宅医療の要にしたいようであるが、それは在宅患者が亡くなればその関係は終わってしまう。かかりつけ医との関係は終わらない。在宅はかかりつけ医。そこからの発想が食べる楽しみ、ハチミツへと続いていると理解していただけると幸いである。「食べる楽しみを実感してほしい」と養蜂をはじめた季節によってハチミツの味は異なる49
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