KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2016年7月号
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して高くなく、むしろ低い方です。それをさらに抑えると、世界が羨む日本の医療制度が崩れてしまいます。─日本の医療制度は、TPPによっても危機にさらされそうですね。空地 TPPでは日本の皆保険制度については議論しないとされていますけれど、皆保険だけが残っても使えなければ意味がありません。いま医薬品や医療資材は公定の価格設定がありますが、それが企業による自由競争になるとさらに高額な医薬品などが出て、それを今でさえ危機の医療財政がまかなえるはずがなく、保険外診療となれば医療格差が生じます。日本は高度先進医療でも安全性や有効性がはっきりすれば医療保険に収載され、1~3割の自己負担や高額医療費制度による一定の負担で受けられる非常にすばらしい医療制度なのですが、それが富裕層しか高度な医療を受けられないアメリカ的な医療制度になってしまう危険性があります。─ポートアイランドで研究されているような先端医療について、どうお考えですか。空地 自身や家族、友人が健康で長生きというのは万人共通の願いです。ですから先端医療は必要で、その研究も重要です。ただし、先端だけに高い倫理観が求められます。研究者はしっかりと倫理観をもっていなければいけないですし、新しい技術や薬品などは第三者的に倫理性を検証されなければいけないと思います。時間をかけてでも倫理性をしっかり検証した上で進めていく、そういう態度や倫理の裏打ちが絶対に必要です。 もうひとつ大切なことは、成果は万人があまねく享受できるシステムであることです。山中伸弥先生や大村智先生は、高邁な倫理観で、自分たちが開発した技術や薬品を全世界の人たちに等しく広がるよう努力されていますが、これはアメリカ的な金儲け主義と一線を画すものです。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)という概念があります。これは、世界中のどんな人も、治療や予防やリハビリを、適正で支払い可能な金額で受けられるようにしましょうという思想で、国連でも採択されています。日本国内はUHCが達成できていますので、それを世界に広めていくことが理想です。先端医療の研究が進むポートアイランド24

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