KOBECCO(月刊 神戸っ子) 1961年9月号
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スパノレタカス名村喜久江なんと申しましても3時間追分なりの超大作、承おわったあと〃自由というものの貴重さ″がズッシリとおつむにのしかかり、鮮血ハリッケ、逆吊り、殺し合いといった残酷物語の各シーンがモウマクにこびりつき、ぐったりした消耗感とそこばかとなき空腹感が胃袋をおびやかした次第でございました。日頃キョークン的なお茶の間ドラマや、よろめき専門の狸インチの世界に飼育されているかよわき(嘘をいいなさんな、西部劇やらプロ野球、ボクシングにうつつをぬかしとるのにとおっしゃるのは誰?)女性群には、猛々しくもショッキングな一大史劇でありました。主人公スパルタカスには予備知識ゼロで対面致しました。気に入らない番兵ならアンヨにかゑつき映画戯評(写真はスパルタカスの決斗場面)やむにやまれぬ正義感から奴隷監督をスープ鍋へつっこんで殺しちゃうタフガイの野生児.逃げだした剣斗士たちや奴隷グループで集団をつくり、狼の如く意地悪で豚の如く貧欲、蛇の如く偽善的なローマ共和国の軍隊と斗い、とんとんと偶像化してゆく(その意味では食い足りない)ス・ハルタヵスがハリッケにあって死ぬ英雄行進曲をタテ糸に、恋あり涙あり友情あり戦斗ありの多彩なヨコ糸を織りこんで、荒々しいタッチで調いあげたメロドロマ風の大叙事詩です、ミリの大スクリーンに展開する千二百万ドルの大ロマン。エキストラまで含めて延一万五百人という人海作戦、撮影日数百六十七日、兵士に着せたヨロィはアルミで七トンなど、いずれをとりあげてゑても物量の差にギョッとする61ばかり。安上りのインスタント映画を量産する日本人には、ねたましくも腹の立つドル化身映画だと申せましょう、俳優のギャラだってすごいんでしょうよ。オリヴィエ、ロートン、ユスチノフらのオバさま族好承に、ダグラス、カーティス、ギャビンらのソーラー族向き。スターが多くてウロウロキョロキョロ眼移りばかり。そのわりに「人物の性格設定が空まわりだし、心理のか承合いも説明不足…」なあんてマヶオシミの一つもいいたくなります。古来、女性とは食いしん坊で衣裳気狂いというのが定説らしい。この妄説にあえて異論をさしはさまず、たっぷり食べ物と衣裳のシーンに見ほれました。といっても食事シーンはごくまれで、とかく飲んだり食ったりの多い日本映画に比べると、スパルタカスの登場人物は、寝食を忘れて斗い続けてばかりいましたつけ.奴隷監督をやっつけた殺人道具は実にポタージュ。いずれ日本のアクションドラマにもミソ汁溺死やタクアン撲殺の類似シーンが登場するかもしれませんよ。ローマの貴族の金ピカ服装、ローマ兵士の赤いマントゑんなふんなステキな豪華さでしたけれど、一番いいなと思ったのは剣斗士や奴隷の着ていたズダ袋コスチューム。なんとなれば最も簡素で最も安上り、そして一番肝心な点は、男が。ハッヶージぬきで評価できるからだったといえましよ。(大阪読売新聞文化部)

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