KOBECCO(月刊 神戸っ子) 1961年8月号
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甲子園球場で始球式のタマを投げたのは、これまでに十数回あるが、捕手のミットにタマがともかくはいったのは三、四回だろうか。たいていは暴投で、捕手の頭上を一メートルも越して、●ハック・ネットにあたったり、捕手の二、三メートル横ちよに飛ばして、キャッチしようとする捕手をひっくりかえらせたり、さんざんなていたらく続きだ。ところが今春の選抜野球のときは、奇妙キテレッな大失敗をやってしまった。審判員が「それではどうぞ始球をお頼承します」というから、私はそのあとについてマさウンドの方に歩いて行った。そしてヘリコプターから落・蔀してくれたタマを彼から受けとり、「投げてよるしか」とたずねると「どうぞ」というものだから、例によって勇ましい?ワインド・アップをやって、投げようとした瞬間、・ハッターがいないことに気がついた。しまった/、と思って、側にいる審判員に投球を止めようかと聞こうと思ったときには、タマはもう手をはなれていた。タマは一一一間ばかり先に落ちた。だからあの際は、タマを投げたのではなく、タマが落ちてしまったのだ。満場大爆笑だ。始球式などというものは、失敗する方が観衆をたのしませるものだから、それでいいようなものの、ワインド・アップがはでであっただけ、さすがにあのときは恥かしい思いをした。ー』甲子園球場三題れんさいIノ随筆②勝勝●ハッターがいないで、捕手だけがいるところへ始球を投に収十牛適え市〒幸山141
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