KOBECCO(月刊 神戸っ子) 1961年5月号
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ニクスにあるアパートに住承ついた私は、毎日アパートの窓からエッフェル塔を眺め、町を見おろし、横丁をブラついては『・ハリの香り』を満喫していた。十一月のパリは、一年中でいちばん冷めたい時だ。枯葉が枝に二、三枚残っていて、まるで並木は、ホウキのように目にうつった。人どおりも少くなく、年老いた男女が、散歩を楽しんでいるぐらいで、とても静かなパリ風景だった。私が、二度目の。ハリ訪問をしたのは、去年の秋のことである。三十年ぶりに訪れたパリの町は、昔と少しも変わらぬ姿でこの私を迎えてくれた。セーヌ河の周辺におい茂った草々も、おかれてあるものまでが、昔のままだった。ただ違っていたことは〃・ハリの空気″と、商品の品物の数が多くなったこと、そして人間の多くなったことだ。滞在期間は四カ月半という短かいものだったが、エトワールの凱旋門の近く、コペル有名なマロニエやプラタナスの街路樹は、二列、三列と道幅に豊かに植えられており、いつも美しく手入れがされている。相当な力の入れようで、なんでも東京都が立てている街路樹の予算の二十七倍という莫大なお金をかけているそうだ。すべて計画的で、郊外には、街路樹ばかりを育てているところがあり、だいたい二、三十年ごとに植え替えるという。しかも街路樹の植え替えは人どおりの少くない午後四時から二時間ほどの間に、たくさんの人がきて植え替えてしまうのだそうだ。だからほとんどの人は、この有名な、〃街路樹″の植え替えに気づかないという。三十年前と少しも変わらぬlという印象を受けるのは店の表の構造が昔のままに改造されていないからだ。石の汚れと灰色は、何だかイン気くさい感じだが、一歩内に入いるとすっかり近代的に改造されている。これは.ハリの町の一つの特色といえるだろう。飛行機から見下した.ハリの町の全景は、旧城内の城ヘキを壊して作られた赤、青色とりどりの屋根をしたア。ハート群が、輪になって古い重々しい「・ハリの町」をとりまいている。つまりパリの店が、外側は古くさいが、内は明るく近代的なのと反対に、「パリの町」は空から見ると、内側が古く、外側が明かるいのだ。またパリにはテレビ局は一つしかなく、アンテナは探さないと見あたらない。そしてパリの人たちはラジオや冷蔵庫などの電気製品が嫌いだ。だからパリには電気器具を売る店が少くない。陽当りの悪い、冷めたい個所にアミ戸のようなものをとりつけ、そこから入ってくる冷気を利用してものを冷やすという原始的な冷蔵法を愛している。もっとも観光客を大事にし、観光客のための設備はゆきとどいているから、外国人専用のァ・ハートには、近代的な設備が十分されているが……それにしても〃パリ″は、おもしろいところだ。(洋画家・新制作、芸大教授)巴里小磯良平151

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